会員・医療関係者の皆さまへ

血清抗体法を用いたヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染診断に関する注意喚起

日本ヘリコバクター学会

理事長 加藤 元嗣

同 胃癌リスク評価に資する抗体法適正化委員会

委員長 伊藤 公訓

 血清抗ヘリコバクター・ピロリ抗体検査(以下、血清抗体法)が広く使用されていますが、実臨床では血清抗体価の取り扱いについて誤った使用例が多く報告されています。血清抗体法は、元来ピロリ菌現感染例と未感染例を区別することを目的とした検査法で、既感染(除菌後)例は判定できません。また最近普及しつつあるLatex法キットはIgG抗体だけでなくIgM抗体やIgA抗体にも反応します。血清抗体法の運用については、以下の事項を十分理解した上で使用してください。

1. 血清抗体価は「現在のピロリ菌感染状態」を反映するものではありません。
 血清抗体法は、保険収載された検査法の中で靜菌作用を持つ薬物の影響を受けない長所を有していますが、現在のピロリ菌感染状態を反映するものではなく血清抗体が陽性というだけで除菌治療を行うことは推奨されません。特に、胃がんリスク評価の際に用いる「陰性高値」例には多くの既感染、未感染例が含まれます。ABC分類における「B群、C群」という判定についても、取り扱いは同様です。問診で除菌歴を除外できても、除菌治療しないでピロリ菌が消失する例(偶然除菌例)が混在するため注意が必要です(引用1)。さらには、除菌成功後の抗体陰性化には年単位の時間を要することが多く(2年経過でも約半数)、除菌後長期経過しても血清抗体価が十分に(半分以下に)低下せず陽性域での持続例があるため、血清抗体法のみで除菌判定をおこなうことは適切ではありません(抗体価が陰性化しないことは、除菌不成功と同じではありません)(引用1)。

2. 除菌治療前には、血清抗体法だけではなく現感染診断に適した検査を実施し、陽性であることを確認してください。
 現在、保険収載されている6つの検査法(鏡検法、培養法、迅速ウレアーゼ試験、血清・尿中抗体法、便中抗原法、尿素呼気試験)すべてにおいて、偽陰性、偽陽性は生じ得ます。ピロリ菌感染診断においては、これらの検査結果や画像所見を総合的に評価することが重要ですが、除菌治療に際しては抗体法以外の5つの検査法のいずれか、または複数を用い現感染を確認してください(多くの施設で安定した結果が得られる検査法は尿素呼気試験、便中抗原法、迅速ウレアーゼ試験です)(注意1)。

3. 血清抗体価測定キットは同じではなく、それぞれ特性があります。
 学会ホームページに掲載している注意勧告文書(2020年4月25日;Latex法における胃癌リスク評価に資する最適な血清抗ヘリコバクター・ピロリ抗体価測定基準値について:引用2)を十分ご理解ください。

引用1: 青山伸郎ほか 日本ヘリコバクター学会誌 2020; 21: 112-120
引用2: 本学会ホームページ(日本ヘリコバクター学会 胃癌リスク評価に資する抗体法適正化委員会からの勧告「Latex法における胃癌リスク評価に資する最適な血清抗ヘリコバクター・ピロリ抗体価測定基準値」について
注意1: 保険診療上の取り扱いについては、「H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版Q&A」を参照

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