理事長挨拶
東海大学医学部内科学系消化器内科学 教授 鈴木 秀和
このたび、2025年7月より日本ヘリコバクター学会の第8代理事長を拝命いたしました。歴史と実績ある本学会をお預かりすることは、大変光栄であると同時に、その重責に身の引き締まる思いでございます。ご推挙くださった役員の先生方をはじめ、これまで本学会を支えてこられた諸先輩方、そして会員の皆様に、心より御礼申し上げます。
私が本学会に入会したのは、1995年の日本消化器ヘリコバクター・ピロリ研究会(現・日本ヘリコバクター学会)発足の年でした。それ以来、Helicobacter pylori感染症の研究・診療・教育を生涯のテーマとして取り組んでまいりました。これまで、定款等委員会、ガイドライン作成委員会、ガイドライン統括委員会、学会誌編集委員会、役員等選考委員会、総務委員会、認定医制度委員会、試験問題作成委員会、生涯教育委員会、社会保険委員会、学会賞選考委員会、除菌レジストリー委員会、基礎研究推進委員会、NHPH研究推進部会、感染症法5類検討委員会など、さまざまな委員を担当させていただきました。
直近では、認定医制度委員長として制度運営に携わってまいりました。この制度は2009年の創設以来、H. pylori 感染症に関する高い専門性を有する医師を育成し、国民の健康と福祉に貢献することを目的として発展してきました。2024年現在、認定医は2019名に達し、学会員の約71%を占めております(地域別:北海道・東北13%、関東33%、中部11%、近畿19%、中国・四国12%、九州・沖縄12%)。
本学会の原点は、H. pylori 感染症を中心とした慢性胃炎・消化性潰瘍・胃がん等の疾患の理解と克服にあります。近年では感染率の低下に伴い、除菌後症例や未感染胃がんの増加、さらにはその分子病態の解明など、研究および診療の焦点も変化しています。特に除菌後胃がんに関しては、AI技術の応用、内視鏡診断の高度化、リスク層別化といった多角的なアプローチが求められています。
申すまでもなく、H. pylori と胃がんの関連性は本学会の根幹をなすテーマであり続けております。日本における年間胃がん死亡者数はようやく減少傾向を示し、2023年にはついに4万人を下回りました。これは、本学会による除菌治療の推進と啓発活動、ならびに内視鏡による早期発見率の向上が大きく貢献した成果であると確信しております。今後も若年層への除菌を含めた予防医療の推進により、「胃がん撲滅」という目標に向けて邁進してまいります。
さらに、胃内共生菌やNHPH(Non-H. pylori Helicobacter)など、新たな研究領域も着実に広がりを見せています。これに伴い、日本胃癌学会、日本消化器がん検診学会、日本潰瘍学会、日本消化管学会、Gut Microbiota研究会など、関連学会との連携を一層深めていく所存です。また、欧米・アジア諸国の学会との国際共同研究の推進も重要であり、とくに感染率や死亡率が依然として高い国々に向けて、疫学・スクリーニング・治療・予防の国際展開において、本学会が中心的な役割を果たしてまいりたいと考えております。
また、若手研究者の育成は、未来への最大の投資と考えております。私自身が「本学会に育てていただいた」という実感を持つ一人として、次世代の医師・研究者が自由に学び、挑戦し、飛躍できる環境を整え、支えていくことを最も大切にしたいと願っております。新たな世代とともに、過去から未来へとつながる「知の架け橋」を築いてまいります。
今後、本学会は、疾患研究の枠を超えて、感染症学、内視鏡医学、腫瘍学、微生物学、AI医療、分子疫学など、多様な領域との融合によって、さらに社会的価値の高い学術団体へと進化すべき時を迎えております。
未熟者ではございますが、歴代理事長の皆様が築かれてきた偉業を継承しつつ、日本ヘリコバクター学会が次なる飛躍の時代を迎えるための一助となるべく、全力を尽くしてまいります。会員の皆様におかれましては、今後ともご指導とご鞭撻を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。