血清抗体法を用いたヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染診断に関する注意喚起(2022年版)
日本ヘリコバクター学会
理事長 村上和成
同 胃癌リスク評価に資する抗体法適正化委員会
委員長 伊藤公訓
血清抗体法の使用について、すでに本学会は2021年5月3日に注意喚起文書を公表しています。すなわち、「血清抗体価は、現在のピロリ菌感染状態を反映するものではないので血清抗体が陽性というだけで除菌治療を行うことは推奨されず、除菌治療に際しては抗体法以外の検査法のいずれか、または複数を用いて現感染を確認する」というものです。その後、「抗体法でより正確に現感染を診断できる抗体価を設定すべきではないか」との要望を受け、以下の文章を追加公表します。血清抗体法の運用においては下記を十分ご理解の上、ピロリ菌未感染者・既感染者に対して除菌治療を行うことのないように注意して下さい。
1. 最も多い血清抗体法の活用は、保険外診療(人間ドック、健診など)で抗体法陽性判定を受け、その後に保険診療で除菌治療へつなげる場合です。
(1) 血清抗体検査と同日に上部消化管内視鏡検査を実施している場合、現感染を確認するため(A)尿素呼気試験または(B)便中抗原検査を追加実施することが推奨されます。
(2) 血清抗体検査結果判明後に内視鏡を行う場合、(A)または(B)を追加するか、内視鏡検査時に(C)迅速ウレアーゼ試験、(D)鏡検、(E)培養、(F)核酸増幅法、いずれかを追加実施することが推奨されます。
なおこれらの場合、抗体法は自費診療で行っているため、その結果が陽性でも上記追加検査は保険診療で実施可能です。
2. 保険診療で上部消化管内視鏡検査を先行して実施した場合、内視鏡検査で現感染と診断したことを受けてピロリ検査を行うことになります。その場合、感染診断法の選択は抗体法以外の6つ(A)(B)(C)(D)(E)(F)のいずれかを用いることが推奨されます。
3. 内視鏡検査でピロリ現感染と確診できない場合に血清抗体検査結果のみで除菌を行うことは推奨できません。やむをえない場合は学会主導多施設研究データより算出した抗体価分布1)を参照し、除菌治療の適応を判断してください。抗体価が高くなれば、その症例が現感染である確率は高くなります。ただし、血清抗体価が比較的低値の場合は、内視鏡所見や他の検査法の結果を参考に総合的な感染診断2)を行うことを強く推奨します。
(参考)各キットにおけるピロリ現感染・未感染例の抗体価分布(既感染例を除外した上で、学会主導多施設研究データ1)より作成)
4. 保険外診療(人間ドック、健診など)において逐年で血清抗体法が用いられる場合があります。また未感染が確定していても逐年血清抗体法が行われている場合があります。血清抗体法は、採血が行われる保険外診療(人間ドック、健診など)では簡便に実施できる検査法ですが、漫然と逐年検査を行わないよう留意してください。
1) 伊藤公訓 他. 胃癌リスク評価に資する抗体法適正化に関する多施設研究(第二報) 日本ヘリコバクター学会誌 22(1).2020
2) 日本ヘリコバクター学会 H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版