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胃内視鏡廃液を用いるヘリコバクター・ピロリ核酸増幅キットの臨床活用に関して

一般社団法人日本ヘリコバクター学会

理事長 村上和成

同 ガイドライン担当理事

下山 克

 令和4年11月1日、Helicobacter pylori (H. pylori)に関する新たな臨床検査として、核酸増幅法が保険適用となりました。

 本検査は、胃液を含む胃内視鏡廃液中のH. pylori DNA 及びクラリスロマイシン感受性に関与する 23S rRNA 遺伝子ドメイン V 領域の変異を検出します。本邦で初めて製造販売承認されたH. pylori核酸キットであり、その臨床活用方法に関してお知らせいたします。

 本キットは、内視鏡検査において追加の侵襲なく得られる”廃液”を使用するため、培養・感受性試験において”生検鉗子”で採取する「胃粘膜生検」に比べて、出血リスクはなく、検体採取の安全性が高いと考えられます。さらに、本キットは核酸精製・増幅・検出に必要な全ての試薬を内蔵したテストカートリッジと専用抽出液により構成され、簡易な測定操作法にて実施でき、診療の現場において1時間以内にH. pylori感染のみならずクラリスロマイシン感受性に関与する遺伝子変異を同時検査することが可能となります。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の体外診断用医薬品の認可を受けているH. pylori核酸キットは1製品のみです。当該製品の相関成績は、既存の検査法を対照とした一致率として、H. pylori感染診断について尿素呼気試験に対し93.6%、便中抗原検査に対し93.2%、またクラリスロマイシン感受性の診断について薬剤感受性試験に対して97.0%と、高い一致率を示し良好です。(Tsuda M et al. Helicobacter 2022 Dec;27(6):e12933)

 H. pylori感染の診断には下記の検査法があり、従来行われてきた①~⑥の検査法に加えて。⑦として核酸増幅法が追加となっています。
 ①迅速ウレアーゼ試験 ②鏡検法 ③培養法 ④抗体測定 ⑤尿素呼気試験 ⑥糞便中抗原測定 ⑦核酸増幅法

 単独でゴールドスタンダードとなる検査が無いため、複数の診断法を組み合せることが推奨されます。保険診療上は①~⑥の検査が陰性の場合に他のもう一つの検査を実施できますが、核酸増幅法が陰性の場合は同時に実施した内視鏡検査の所見でH. pylori感染が疑われる場合に他の検査を一つ実施できます。

 除菌療法における薬物の選択は、薬剤感受性試験を行い、最も高い除菌率が期待される組み合せにすることが推奨されます。しかし、薬剤感受性試験にはH. pyloriの培養を必要とするため、専用の機器や設備、専門知識を有する検査技師のもとの検査となります。培養においては1週間以上の検査期間を要することから広く普及しておらず、薬剤感受性試験に基づく除菌療法の選択は難しいという課題がありました。本キットは、H. pylori感染診断に加え、薬剤感受性試験と同じ位置付けでクラリスロマイシン感受性の診断に使用できるものと考えています。よって、H. pylori除菌においては、効果的な除菌療法の選択および抗菌薬の適正使用に有用な情報を得ることができます。適正な除菌療法の選択は、治療期間の短縮、薬剤による副作用の回避、医療費削減に加え、新たな薬剤耐性菌の広がりを抑えることにも繋がると考えられます。

 保険診療におけるH. pyloriの除菌療法としては、1次除菌と2次除菌の順番の変更は出来ませんが、薬剤感受性試験等で感受性が低く、除菌されない可能性が高い場合には、最も高い除菌率が期待される組み合せにすることが推奨されます。除菌療法の選択においては、診療録および診療報酬明細書の摘要欄に、その根拠を明記する必要があります。また、自治体や保険者により、診療報酬の審査支払に対する判断が異なる場合がありますので、注意が必要となります。

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